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中学受験生の親に求められる感情のコントロール―家庭学習を成功させる3つの工夫

首都圏では、中学受験者数が増加しています。私学の打ち出すカリキュラムに魅力を感じる、中高一貫校でゆったり育てたい、見通しの立たない社会だからこそ、多様な経験を積ませたい…。中学受験を目指す背景には、様々な理由があるようです。

しかし、小学校4年生から、早ければもっと早期からの準備が求められる中学受験に立ち向かうとなれば、小学生とはかけ離れた生活習慣を、家族も巻き込み余儀なくされることに。

それでも、受験のメリットを信じて道を切り開いていくなら、受験という経験を子どもにとって価値あるものにしなければなりません。中学受験生をサポートする際に必要な感情のコントロールについて、考えていきましょう。


中学受験の特殊性

中学受験は、その後に続く高校受験や大学受験と少し様相が異なります。家族の意見やサポートが、大きく関与しているという点です。

試験を受けるのは子どもですが、中学受験は一家で立ち向かう営みです。他にも、浪人できないという緊張感、学校で学ぶ内容では太刀打ちできない等も、中学受験の特徴です。

サポートする側の親にも、大きなストレスがかかる点も、中学受験の特殊性と言えるでしょう。どこまで手出しをしていいのか、サポートの加減が難しいのです。

ネットにあふれる情報に、自分の心が揺らいでしまいます。「まだ小学生。こんなに遅くまで勉強をさせていいのかしら」と、常にどこかに迷いがあるかもしれません。正解がない中での受験のサポートには、特殊で複雑な難しさがつきまといます。

受験生との関わり方の基本

中学受験の道のりは、とにかく長いのです。もちろん、合格に向けて勉強をやらせることは必須ですが、小学生という心身が著しく発達する時期に、受験生であるからと言って、発達の機会を奪い取るわけにはいきません。

「受験生であっても、家族の一員である」これが、関わり方の基本でしょう。やらなければならない学習内容は驚くほど多く、勉強以外のことを行う余裕は、最終的にはなくなってしまうかもしれません。それでも、受験生を王様化して、家族が下僕のようになってしまうと、いいことはありません。

食器を運ぶ等の小さなことでもいいので、家族の一員としての役割は残しておいた方が、子どものためになるはずです。

中学受験をしたが故に、社会性の薄れや、情緒面での成長の遅れを招かないよう、早い時期から、親が全てを肩代わりするような関わり方は避けましょう。

感情労働という概念を知る

感情労働とは、職業上に求められる「望ましさ」に従って、感情を制御・管理することが求められる労働のこと。医療、福祉、教育等、対人援助の現場で注目されている概念です。(ホックシールド 2000)

例えば、乳幼児の保育や保護者の支援を行う保育者の場合、明るく笑顔でいることが基本的に望まれます。「今日は気分が優れない」という日であっても、自分の感情を調整して、現場に立つことが求められます。

しかし、こういった感情調整はストレス要因ともなり、バーンアウト(燃え尽き)の原因になってしまう可能性もあるとのこと。そうならないためにも、自分の感情を理解したり、ストレスをためないようにする工夫が必要とされています。

長期に渡り、自分の努力とは別次元で進んでいく子どもの中学受験、ここにも感情調整が求められます。歯がゆさや焦り、そして葛藤が常につきまとうサポートですが、途中で燃え尽きてしまわぬよう、工夫をしながら進んでいきましょう。

受験生のサポートには、ストレスがつきもので、時として自分の感情を調整して向き合っていく必要があることを理解しておくだけでも、心の負担が減りそうです。

受験生の親に求められる感情のコントロール

受験生のサポートには、感情のコントロールが求められます。そして、我慢には限界があります。「ついに怒りが爆発し、子どもを大きく傷つけてしまった」、こんなことを招かないためにも、上手な感情のコントロール法を押さえておきましょう。

1.マイナスイメージを持ち続けない

受験には「確実」はありません。どれだけ成績が良い子の親にも、不安感がつきまといます。大切なのは、その不安からくるマイナスイメージを意識的に調整すること。

例えば、ゴールを複数軸で持っておくと、切羽詰まった感情は軽減されます。志望校の入試までの道のりばかりでなく、次のテストに向けて、5年生の夏休みに向けて等、長期、中期、短期で目標を作っておくと、「できていない」というイメージは薄れていくことでしょう。

また、受験をすることになったから遊ぶ時間がない、毎晩遅くまで勉強しなければならない等のマイナスイメージも、払拭しましょう。受験のために頑張る経験を通して、子どもは精神的にも強くなるのだと、ポジティブな影響に目を向けるといいですね。

実際、受験を通して、悔しさ、悲しさ、嬉しさ等、様々な感情体験をすることは、子どもをぐんと大きく成長させます。

2.イライラした時に何をするかを決めておく

イライラの要因は、一つではありません。子どもの成績、仕事の忙しさ、更年期による体調不良、親の問題など、複数の要因が複雑に絡み合っていることが多くあります。ですから、たとえ一つのイライラ要因を取り除いても、スッキリするということはあまりないのかもしれません。

問題なのは、イライラすることではなく、イライラから発動される言動です。例えば、イライラから「受験なんかやめてしまいなさい」と怒鳴ってしまったら。「お母さんがこんなに頑張っているのに、何でできないのよ」と言ってしまったら。子どもは深く傷つき、取り返しがつかないことになってしまいかねません。

受験生のサポートにはイライラがつきものと捉え、イライラした時の対処法を決めておきましょう。例えば、トイレに行く、ベランダに出る、水を飲む、深呼吸する。言動は咄嗟に出てきますので、イラっとしたらやることを、事前に決めておくことが大切です。

ストレスをためこまない習慣も、作っておくといいですね。身体を動かしたり、誰かと話すことは効果的です。親も孤独になりがちですので、相談相手を作っておくことも重要です。

3.自分の思い込みに気づく

子どもは全てを話しません。子どもの様子から、子どもが持ち帰ってきたテスト結果から、子どもの状況を察していくしかありません。しかし、察する際には思い込みが働きます。しかも、無意識に。

点数が下がったのは、怠けていたからだ。最近帰りが遅いのは、友達とふざけているからだ。塾に行きたがらないのは、先生との相性が悪いからだ、等々。事実とは無関係に働く思い込みは、親子のストレス要因にもなってしまいます。

「私の思っていることは事実なのだろうか」と自分に問いかけてみましょう。そして、事実がわからないからこそ、子どもとの対話を大切にしてください。

たとえ、点数が下がっても、「怠けていたからだ」と決めつけずに、「悔しかったね。次はどうしたい?」と聞いてみると、子どもの本心が聞こえて来るかもしれません。

「塾に行きたくない」と言ってきたなら、「伝えてくれてありがとう」と返し、「もう少し、詳しく教えてくれるかな」と、子どもに自由に話させてあげましょう。実際が見えてくれば、対処法も考えられるのではないでしょうか。まずは、見ている世界は事実ではないことに気づいてください。

試験が終わるその日まで、サポート側の悩みはきっと尽きないことでしょう。しかし、その悩みはいつの日にか、「受験をしてよかった」という喜びに変わるはずです。受験を通して、子どもは驚くほど成長します。受験を終えたお子さんは、きっと見違えるほど、心身ともに成長していることでしょう。

参考:A.R.ホックシールド(2000) 管理される心 世界思想社

執筆:江藤 真規さん
株式会社サイタコーディネーション代表。
自身も子育て経験を持つ二児の母で、お子さんは姉妹共に東大現役合格。
現在はエデュケーショナルコーチとして保護者、教職員・保育者を対象に、コーチングに関する講演・セミナー、執筆活動を行う。
文部科学省「男女共同参画推進のための学び・キャリア形成に関する有識者会議」の委員も務め、共働きに関する知見も深い。

著書
『勉強ができる子の育て方』
『合格力コーチング』
『子どもを育てる魔法の言い換え辞典』
『母親が知らないとツライ「女の子」の育て方』

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