誰かと「比べる」のはやめて!「自分を大切にできる子」を育む方法
「Aちゃんってすごいよね〜」
「Bくんは優秀だから、また1番だったそうね」
何気ないこれらの言葉は、子どもにどう届いているのでしょうか。
「あなたも、Cちゃんみたいに頑張った方がいいんじゃない?」
励ますつもりで放った言葉は、子どもに何を伝えているのでしょうか。「Dくんより良くできたね」は、本当に嬉しいのでしょうか。
子どもの周りには常に他人がいます。無意識に比較が始まってしまうかもしれません。しかし、そこは要注意。他人との比較が生み出す弊害を知り、「自分を大切にできる子ども」が育つ環境を整えていきましょう。
子どもにとって大切な「自尊感情」
他人との比較の話に入る前に、心の育ちに大きく影響を与える自尊感情について、理解を深めましょう。
自尊感情(self-esteem)とは、「自分自身を価値あるものと思う感情」です。自尊感情研究の第一人者である近藤卓氏によれば、土台となる「基本的自尊感情」、その上に積み上げられる「社会的自尊感情」、これらの組み合わせによって自尊感情は成り立っているといいます。
「社会的自尊感情」とは、「すごい自分」という感情です。「人より優れている」「できることがある」と思える感情で、他人との比較で得られるもの。物事がうまくいったり、人から褒められたりすると高まりますが、失敗したり叱られると低くなってしまう、一過性の感情だそうです。
他方、「基本的自尊感情」とは、「ありのままの自分」という感情のこと。自分自身を受け入れ大切な存在として尊重する、成功や優越等、他人との比較とは無関係の感情です。自尊感情の土台であり、ここが弱いと、自分自身を大切にすることができません。
もちろん理想は、「基本的自尊感情」が整っていることです。その土台なくして、「『すごい自分』ばかりが肥大してしまうことは危険」と、近藤氏は警笛を鳴らします。心が不安定になり、命を大切にしなくなってしまうケースさえあるそうです。
子どもの自尊感情に影響を与える「他人との比較」には要注意。言葉の選び方には配慮が必要です。
「他人との比較」の弊害を知る
「他人との比較」は、便利で使い勝手がいいのかもしれません。「◯◯ちゃんはやっているよ」と焦らせたり、「◯◯さんより上手だった」と、優越感に浸らせ自信を持たせれば、子どもの気持ちはてっとり早く変わるのかもしれません。しかし、常に誰かと評価される日常は、子どもの育ちに大きな弊害をもたらします。3つの弊害を見ていきましょう。
失敗を恐れる
他人より優れていることが価値。勝敗、優劣という尺度ばかりで世の中を見てしまうと、勝てている時はいいのですが、失敗した時に大きく落ち込みます。そして、落ち込みから回復しづらく、失敗を恐れて挑戦を諦めるようになってしまいます。難しいことにはチャレンジしないなど、可能性に制限がかかってしまいます。
自分が不在になる
心がワクワクすることは特にない、本当に自分がやりたいことが見つからない。他人との比較が基準となってしまうと、常に誰かの思いに左右され、自分の気持ちがわからなくなってしまいます。「自分がどうしたいか」には無関心で、「他の人はどうなのか」、「他人から見られる自分はどうなのか」ばかりが気になってしまう…。これでは、自分の人生を生きているとは言えません。
自己成長できなくなる
なぜ頑張るのか。その理由が、他人を超えることだけだったとしたなら、その頑張りは、いつか限界を迎えます。超える対象が、そのうちいなくなるからです。「上に行く」ことを目指したとして、今や上下を測る尺度は一つではないからです。他人との比較だけを基準としていると、自己成長が止まってしまいます。
今すぐ「他人との比較」をやめるための3つの方法
子どもの心の成長を考えれば、「他人との比較」は百害あって一利なし。すぐにでもやめたいものですが、ある意味習慣化されている「他人との比較」は、気づかぬうちに無意識に発動されてしまいます。ここでは「他人との比較」をやめるための具体的な方法を3点ご紹介します。
1.事実を伝える
私達は解釈の世界で生きています。一つの事実に対して、自分なりの解釈を加えているということです。
例えば、「他人との比較」に出てくる「他人」のことを、私達はどれだけ知っているのでしょうか。「Aちゃんはすごく勉強頑張っているんだね」も勝手な解釈。Aちゃんが勉強を頑張っているか否かは、本人に聞かなければわかりません。
「事実を伝える」を意識しましょう。他人のことを話題にする場合も、「事実しか口にしない」を意識。「Aちゃんは塾に通い始めたそうだね」、これで十分です。「頑張っている」という解釈も必要なければ、「すごいね」「えらいね」等、解釈から発展した感想も不要です。
2.縦で見る
「他人との比較」をやめる一番の近道は、「縦で見る」を意識すること。垂直展開、つまりその子自身の変化を見ていくことです。子どもの1週間前の様子を思い出してみる。最近一生懸命やっていることを見つけてみる。子どもの心情を想像してみる。すると、子ども自身の変化が見えてくるはずです。
子どもを縦で見られるようになると、子どもの褒め方も変わってきます。
「苦手分野を頑張って勉強したから、いい点数を取れたね」
「朝練習を継続してきたから、今までより速くなったね」
結果を褒められた時の嬉しさは一過性。すぐに消えてなくなってしまうため、結果を出し続けなければ維持することができません。しかし、努力や変化を褒められた喜びは、子どもの心を強くします。「もっとやってみよう」という気持ちが生まれます。
3.子どもの強みを見つける
人には強みも弱みもあります。強い部分をもっと強くするのも成長、弱い部分を補っていくのも成長です。しかし、親の目は「弱いところ」に行きがちで、埋め合わせをすることばかりに躍起になっているかもしれません。教育現場も同様です。「苦手を克服」こそが、大切な学習という見方が未だあるかもしれません。
子どもの強みに目を向けてみませんか。
強みを見つけるとは、その子を深く知るということ。他人の存在など、そこには必要ありません。この子のことを知る。キラリと光るものを見つける。「この子なら大丈夫」という気持ちが親の心に芽生えれば、もう「他人」のことなど、気になりません。
「他人との比較」に走るのは、親の心の不安定さの表れだったのかもしれません。
自分自身を大切にする
人間がロボットやAIと共存する社会はすでに始まっています。それに伴い、子ども達の学びの様相は一変してきています。あれもこれも…と、やるべきことが増えたと感じる方も多いかもしれません。
こういった時代に特に必要なのが、「自分自身を大切にする」力です。人生の基盤であり、ここが整っていれば、上には何でも積み重ねることができるでしょう。自分を大切にできるから、他人も大切にできるということ。持続可能な未来社会の担い手に必要な力です。
しかし、「他人との比較」にあふれている社会では、ダメな自分ばかりが浮き彫りとなり、自分を大切にできなくなってしまうこともあったりします。
だからこそ、せめて家庭では、子どものありのままを受け入れ、自分自身を大切にできる子どもを育てていきましょう。「あなたは成長している」「あなたらしい」というメッセージを、届け続けていきたいものです。他人との比較ではなく、今ここにいる「この子」に温かい眼差しを向けていきましょう。
出典:近藤卓(2020)『誰も気づかなかった子育て心理学:基本的自尊感情を育む』金子書房
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