「学校に行きたくない」と言われたら…
「学校に行きたくない…」
できれば聞きたくなかったこの言葉は、ある日突然聞こえてきます。
「もしや…」
不登校児童生徒数が年々増え続けている事実が、親の不安を掻き立てます。
文部科学省のデータによれば、令和4年度の小・中学生の不登校児童生徒数は299,048人と過去最多。前年度からは54,108人の増加(前年度22.1%増)と、想像を超える勢いです。
もはや「特別なこと」ではなくなった子どもの不登校。個人の問題を超え、社会の課題をあぶり出している現象と言っても過言ではありません。今という時代を生きる子どもに、親としてどう関わっていくことができるか、考えていきましょう。
「行きたくない」には理由がある
子どもの「学校に行きたくない」には、理由があります。単に疲れている、もっと寝ていたいというものもあれば、宿題をやっていない、先生に昨日叱られた、友達との関係が嫌だ等、気持ちにブレーキがかかって「行くことができない」ケースもあります。
一つの理由ではなく、様々な理由が複雑に絡まりあっていることもよくあります。疲れや環境変化に伴うちょっとした「行きたくない」もあれば、悩みに悩んでやっと言葉にできた「行きたくない」もあるということです。
まずは何らかの理由があることを理解し、焦らず、感情的にならずに、子どもの気持ちに寄り添ってみようと意識することが大切です。
咄嗟の言葉には要注意
「学校に行きたくない」の捉え方は、親によって様々です。
「学校は行くべきもの」、「怠けている」と強硬姿勢を取る親もいれば、「大変なことになった」と一緒に悩んでしまう親も。「誰のせいだ」と責任の所在を躍起になって探し出す場合もあれば、「かわいそうに」と特別扱いを始めることも。
もちろん、どれが正解ということはありません。ただ、「咄嗟の言葉には要注意」、これはいずれのケースにも当てはまると感じます。子どもの言葉に即反応して、咄嗟に思ったことを言わない方がいいということです。
人は、過去の経験や見聞きしてきたことを材料に、一つの事実を自分なりに解釈しています。「学校に行きたくない」から、いじめられていると思い込む人もいれば、怠けていると思い込む人も。いずれも、無意識の思い込みであり、実際どうなのかは、子どもの本心を聞かなければわかりません。
ふと呟かれた「学校に行きたくない」に、子どもの本当の気持ちをわからずして、咄嗟に何か言ってしまったら…。そして、その言葉が更に子どもを傷つけてしまったとしたら…。自分がイメージしている世界は、事実とは異なる可能性があることを認識し、「どうせわかってもらえない」とならぬよう、子どもの気持ちを受け止める覚悟を持ちましょう。
やめておいた方がいい対応
他にも、やめておいた方がいい対応がいくつかあります。
まずは、子どもの気持ちを無視した指示や助言です。学校という社会を、親は知りません。「こう振る舞えばよい」等の助言は、的外れになってしまうばかりか、子どもの肯定感を下げてしまいます。
学校には絶対に行かなければならない、と理由も聞かずに無理やり行かせようとするのもやめておいた方がいいでしょう。怠けているのではなく、ストレスが身体反応に出ていることもあるのです。子どもは居場所を失ってしまいます。
行きたくない理由を無理やり聞き出そうとするのもNGです。根掘り葉掘り聞き出そうとすれば、子どもはかえって心を閉ざしてしまいます。子どもを尊重した行為とは言えません。
更に、自分が解決しようとしたり、犯人を探そうとするのも、やめておきましょう。前述の通り、親にとっては学校という場は知らない場、親の力でどうにかしてあげることはできないのです。部外者が土足で立ち入ろうとすること自体、子どもを二重に苦しめてしまいます。
もちろん、自分の子育てが悪かったのだと自分のせいにするのもNGです。学校に行かないことで、親が落ち込んでいる姿を見ると、子どもはどんな気持ちになってしまうでしょう。子どもにとって、何一ついいことがありません。
子どもを守るために親ができること
とはいえ、SOSが含まれているかもしれない、「学校に行きたくない」という意思表明。子どもを守るために親ができることを、5点ご紹介します。
1.心の内を聞く
まずは、子どもの心の内を聞いてみましょう。「行きたくない」と感じる理由を聞いてみるということです。とは言え、聞き出そうとするのはNGです。事情聴取のようになってしまうと、子どもは心を閉ざします。
うまく聞くためには、タイミングが重要です。子どもの様子を見ていて、子どもが話をしたそうなタイミングを見つけます。いきなり理由を聞くのではなく、「そうか、今日はそういう気持ちなのね」と、子どもの気持ちを一旦受け入れることも大切です。話を聞く際には、余計な助言は言わずに、しっかり傾聴することも忘れずに。自分の役割は「話を聞くこと」と決め、子どもの心の内をゆっくり、じっくり聞いてみてください。
2.「べき」を手放す
「〇〇すべき」という考え方。これがあるから、頑張ることができる人もいますが、強すぎる「べき」は、視界を狭め、柔軟な発想の妨げになってしまいます。「学校に行きたくない」の理由は様々であり、子どもの心の安定を真ん中にした、柔軟な対応が求められます。
「べき」を手離し、いま子どもはどういう状況にあるのか観察してみてください。何が言いたいのか、何を求めているのか、それに対してどのようなサポートができうるのか、子どもを守るために柔軟に考えていきましょう。より柔軟な思考を持つためには、子どもの置かれている環境自体も、大きく変化していることを意識するとよいでしょう。
3.学校との連携
学校と家庭の連携は、子どもを育てる上でとても重要です。家庭だけでどうにかしようと思わず、学校の先生に相談してみましょう。先生に話す際には、「事実を伝える」ことを意識します。
子どもの話を聞きながら、学校に対してネガティブな気持ちを持ってしまうこともあるでしょう。しかし、親が感情的になってしまうと、先生との対話がうまく進まなくなってしまいます。子どもを中心に置き、「子どもにとってどうすればよいか」を、共に考えていきたいものです。
また、学校に要望がある場合には、具体的かつシンプルに伝えることが鉄則です。余計な言葉は、伝えたい内容を曖昧にしてしまいますし、察してほしいと思いすぎると、「わかってくれない」と、より否定的になってしまいます。お願いをして、伝わらなければ、伝える先や方法を変えてみましょう。
4.専門機関に相談する
眠れない、食欲がない等、心配な状況がある場合には、専門家に相談しましょう。子どもの状況によっては、親子間、学校―家庭間では解決ができないこともあったりします。子どもを守るために、専門家に相談に乗ってもらいましょう。
身近なスクールカウンセラーに相談するのもよいでしょう。臨床心理士や公認心理士等の専門家も、各地域にいるはずです。窓口として、市町村の子育て相談窓口を利用することもできます。適切な機関につないでくれます。
子どもの不登校に際しては、心のケアのみならず、学習面での心配もあるでしょう。学習面には学習面の専門家がいます。まずは情報を収集してみてください。
5.親は自分のことをする
子どもにとっては、いつも通りが一番心地よい環境です。自分のせいで、家庭の雰囲気までもが暗くなってしまうと、前向きな気持ちにもなれません。気がかりを横に置き、いつも通りの日常を過ごす意識をもってみてください。「今晩は何を食べたい?」と、ピリピリした空気感を明るい声で排除しましょう。
寝ても冷めても子どものことが気になってしまう場合には、あえて自分の為に何かをスタートするのもおすすめです。オンラインを利用すれば、学びの機会は圧倒的に膨らみます。地域のボランティア活動にも、興味があるものがあるかもしれません。時間の使う先が新しくできれば、必然的に子どもへの心配は減りますし、新しい出会いは、ポジティブな気持ちを生み出します。筆者も子育てに悩んだことをきっかけに、自身の世界が広がった経験をしています。
子育て中には様々な難しさが訪れますが、だからこそ、親は親として成長していくのだと思います。子どもを見ること、子どもの育つ力を信じること、そして一人で頑張らずに誰かに頼ることを大切にしていってください。